
生成AIは、メールや提案書の下書き、会議の要約、アイデア出しなど、日々の業務で使われる場面が増えています。特に人員に限りのある中小企業や小規模事業者の間では、業務を効率化できる心強いツールとして活用したり、導入を検討したりする企業が増えています。
ただし、使い方を決めないまま導入すると、便利さの裏で思わぬ問題が起こることがあります。たとえば、顧客情報や社内資料を入力してしまう、AIが作った内容を十分に確認せず公開してしまう、といったケースです。生成AIを業務で使うなら、「何を入力してよいか」「誰が内容を確認するか」といった基本的な方針を、あらかじめ決めておく必要があります。
この記事では、生成AIを業務で利用する前に決めておきたい「機密情報の取り扱い」「生成物の権利と責任」「誤情報を公開しない仕組みづくり」「運用ルールの明文化」の4つを解説します。最初から専門的で細かな規程を作る必要はありません。自社の業務に合わせて、まずは最低限のルールを整理するところから始めていきましょう。
Contents
生成AIを業務で使うときに最初に決めることは何か

生成AIを業務に取り入れるときは、使い始めてから問題が起きないよう、あらかじめ基本的なルールを決めておくことが大切です。会社として決めておきたいことは、大きく4つあります。
- 生成AIを業務に活用する際の機密情報の取り扱い
顧客情報・社内資料・契約書など、外部の生成AIに渡してよい範囲を決める - AI生成物の権利と責任の整理
AIが作った文章・画像を使う前に、既存の著作物との類似や、公開する側の責任を確認する - AIの誤情報を公開しないための仕組みづくり
AIが生成したものに含まれる「事実と異なる情報」をそのまま公開しないための仕組みをつくる - 運用ルールの明文化
社内で決めたAIの運用に関するルールを明文化し、社内全体に共有する
この4つは、特別な知識や大がかりな仕組みがなければ決められないものではありません。生成AIは、モデルによって機能や得意なことに違いがあります。しかし、情報をどう扱うか、生成された内容を誰が確認するかといった基本的な考え方は、使うAIの種類や、会社の業種・規模を問わず共通です。
まずはこうした方針を決めておくことが、生成AIを安心して業務に取り入れるための第一歩になります。次のセクションから、4つのポイントを具体的に見ていきましょう。
生成AIを業務に活用する際の機密情報の取り扱い

生成AIに業務の情報を渡すとき、最初の壁になるのが「機密情報の扱い」です。個人情報保護委員会が公表している「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」では、個人情報を含む内容を生成AIに入力する場合は、その情報の入力が本当に業務上必要かをあらかじめ確認するよう注意を促しています。
大企業でも問題になった「機密情報の入力」
実際に、機密情報を生成AIへ入力したことが問題になった事例もあります。
PC Watchの報道によれば、韓国の大手電子機器メーカー「サムスン電子」では、2023年に社内でChatGPTの利用を認めた直後の短期間に、従業員が機密情報を入力してしまう事案が複数発生しました。報じられているのは、次のようなケースです。
- 半導体設備のプログラムのソースコードを、不具合の相談やコード最適化のために入力した
- 社内会議の録音を文字に起こし、議事録作成のために入力した
同社はこれを受けて入力できるデータ量を制限し、状況によっては生成AIへの接続を遮断する可能性にも言及したと報じられています。
サムスン電子は韓国国内にとどまらない世界的な大企業です。それほどの企業でも、こうしたトラブルが実際に起こっています。むしろ、社員が自己判断でAIを使いやすい環境にある中小企業ほど、社内情報の取り扱いについて、きちんと決めておく必要があるといえるでしょう。
情報の取り扱いで押さえておきたいポイント
社内情報を取り扱ううえで自社に合ったルールを考える際、押さえておきたいポイントは次の3つです。
- 機密情報は原則として入力しない
お客様から預かった資料や個人情報を外部の生成AIに入力すると、その情報が外部に送信されるだけでなく、学習に利用される可能性があります。文章の相談などでAIを使いたいときは、人や会社の名前を「Aさん」「B社」と置き換えるなど、個人や取引先を特定できる情報を渡さない形で活用しましょう。 - 社内の情報を区分する
社内資料は、あらかじめ「公開してよいもの・社内限定・社外秘」のように区分しておきましょう。入力してよいか迷うたびに一から考えるのではなく、区分を見れば判断できる状態にしておくことで、担当者による判断のばらつきを防げます。 - 区分に応じて扱い方を変える
社外秘にあたる情報でも、業務を進めるうえで生成AIの力を借りたい場面はあります。そうした場合は、入力した内容を学習に使わない設定があるサービスを選ぶ、社内に閉じた環境でのみ扱うなど、情報が外部に残らない方法に限定しましょう。
大切なのは「一律禁止」でも「一律OK」でもなく、情報のレベルに応じて使い分けることです。中小企業なら、まず「個人を特定できる情報」「契約書類」「経営に関わる数字」の3つを社外秘として入力禁止にし、それ以外は実際に使いながら、少しずつ扱える範囲を広げていくとよいでしょう。
AI生成物の権利と責任の整理

次に確認しておきたいのが、生成物の権利と責任についてです。AIで生成した画像やロゴを業務で使う場合、たとえサービス側の規約で商用利用が許可されていたとしても、その生成物が他者の著作権を侵害していないことまで保証されるわけではありません。
文化庁が公表しているAIと著作権についてでは、AIの利用に関する著作権上の考え方が示されており、生成物が既存の著作物に類似している場合の取扱いや、利用時に注意すべき場面が整理されています。
業務でAIの生成物を利用する際は、次の3点を確認しましょう。
- 既存の著作物と類似したものでないか確認する
生成された文章・画像が既存の著作物と似ていないかを、人の目で確認する工程を置く - 他社の商標やロゴの混入がないか確認する
商標・固有名詞・他社のロゴが意図せず混ざっていないかを、公開前に見ておく - 責任の所在を社内で共有する
生成物を公開する責任は、AIではなく公開する側に残ることを前提にしておく
AIに任せておけば権利の問題まで解決される、というわけではありません。AIの生成物であっても、公開・利用する側が内容を確認し、その判断に責任を持つ必要があります。だからこそ、「公開前に、誰が、何を確認するか」をあらかじめ決めて、確認を業務の流れに組み込んでおくことが大切です。
AIの誤情報を公開しないための仕組みづくり

AIが生成する文章は、一見整っているように見えますが、事実と異なる内容をもっともらしく出力することがあります。こうした現象は「ハルシネーション」と呼ばれ、数字・固有名詞・法令・制度などの記述では特に注意が必要です。そのまま社外に出してしまうと、誤った情報の発信につながるおそれがあります。
弊社でも文章を作成する業務でAIを活用していますが、AIを使って作成した文章は公開する前に必ず以下のような確認を行っています。
- チェックリストをAIに読み込ませて照合する
表記のゆれ・禁止表現・字数などの形式的な項目は、あらかじめ社内のルールをチェックリスト化しておき、AIに読み込ませて確認します。 - 別のAIに再チェックさせる
文章作成に使ったAIとは別のAIに内容をレビューさせるのも有効な手段です。文章を作成したAI自身は、自分の書いた内容を「正しいもの」として見直してしまいがちなため、別のAIに初見の読者として読ませるほうが、問題点を拾いやすくなります。とはいえ、生成AIの仕組み上、複数のAIが同じ誤情報を出す可能性もあるため、事実かどうかの最終確認は必ず人の目で行いましょう。 - 最後は人が全体に目を通す
数字・固有名詞・制度に関する記述を一次情報と照らし合わせるのはもちろん、日本語として不自然な表現や、内容そのものへの違和感がないかも含めて、最後は人が原稿全体を読み通します。AIによるチェックを重ねても、公開してよいかどうかの最終判断は人が行うことが大切です。
すべてを人の目だけで確認しようとすると時間がかかり、かといってAIだけに任せると品質に不安が残ります。こうした方法を参考に、品質を保ちながら効率よく内容をチェックする仕組みをつくっておきましょう。
まずは「数字・名前・日付は公開前に人が確かめる」と決めるだけでも、誤った情報をそのまま公開してしまうリスクは大きく下げられます。慣れてきたら、確認する項目を少しずつ増やしていきましょう。
中小企業のための運用ルールの作り方

ここまで見てきたポイントを踏まえ、社内でAIの運用に関するルールを決めたら、明文化して社内全体に共有しましょう。
ルールを作るときに参考になるのが、総務省・経済産業省が公表しているAI事業者ガイドライン(第1.2版)です。AIを開発・提供・利用するそれぞれの立場で考えるべき事項がまとめられており、国の基本的な考え方を押さえることができます。最初からすべてを取り入れる必要はありません。自社の業務で迷いやすい場面から、少しずつルールにしていきましょう。
ルールに書き出しておきたい項目
最初から細かな規程を作るのは手間がかかるうえ、運用のハードルが上がってしまいます。まずは最小限、以下を明文化しておきましょう。
- 業務に使用する生成AIサービス
会社が把握していないツールを社員が自己判断で使ってしまう状態だと、ルールを決めても品質のばらつきや情報漏えいにつながりかねません。あらかじめ業務で使ってよいサービスを決めておきましょう。 - 外部のAIに渡してはいけない情報
お客様の名前や連絡先、契約書・見積書、売上に関する数字など、外部のAIにそのまま入力してはいけない情報を挙げます。「機密情報は入力しない」とだけ書くのではなく、自社で日常的に扱う書類やデータに置き換えて書いておくと、判断に迷いにくくなります。 - 生成物を公開する前の確認手順
ブログ記事であれば、「公開前に担当者が数字・固有名詞・リンク先を確認する」のように、誰が何を確認するのかを決めます。AIを使ったかどうかにかかわらず、公開する内容の責任を誰が持つのかを明確にしておくことが大切です。
運用に合わせてルールを改善していくことが大切
こうしたルールは、最初から完璧に仕上げる必要はありません。大切なのは、実際に使いながら、必要に応じて内容を更新していくことです。
生成AIは進化のスピードが速く、新しいモデルやサービスが次々と登場しています。使用するサービスを変えたときや、AIを活用する業務が増えたときには、ルールも合わせて見直し、社内で共有しましょう。
実際に使うなかで生まれた疑問や、判断に迷った場面も、見直しのきっかけになります。自社の体制に無理のない形へ、少しずつ整えていきましょう。
判断に迷ったときの「相談相手」の決め方

ルールを明文化しても、実際の業務では「この資料は入力してよいのか」「この生成物は公開して大丈夫か」など、ルールだけでは判断しきれない場面が出てきます。そのたびに社内で調べて判断するのは、AIに詳しい社員がいるとは限らない中小企業にとって現実的ではありません。
そこでおすすめしたいのが、判断に迷ったときの相談相手として、生成AIに詳しい外部の会社を決めておくことです。まずは、付き合いのあるIT企業や制作会社の中に、相談できそうな相手がいないか探してみてください。新しく探す場合は、次のような会社が候補になります。
- 自社でも生成AIを業務で使っていて、運用の実例を話せる
- ツールの導入だけでなく、ルールづくりや見直しまで付き合ってくれる
- 公的なガイドラインを踏まえて説明してくれる
- できること・できないことを正直に言ってくれる
生成AIを取り巻く状況は変化が速く、すべてを社内だけで判断し続けるのは負担の大きい分野です。「迷ったらここに聞く」と決めた相手が一社あるだけで、ルールの運用はぐっと続けやすくなります。
まとめ
中小企業が生成AIを業務で利用するときの注意点と、社内ルールの作り方について、要点を振り返ります。
- 生成AIを業務で使う前に決めておきたいのは、「機密情報の取り扱い」「生成物の権利と責任」「誤情報を公開しない仕組みづくり」「運用ルールの明文化」の4つです。
- 機密情報は「一律禁止」でも「一律OK」でもなく、情報のレベルに応じて線引きしていくのが現実的です。
- 生成物を公開する前の確認と、公開したあとの責任は、AIではなく使う側に残ります。
- 運用ルールは最小限の項目を明文化するところから始め、実際に使いながら見直していく形が、中小企業には取り組みやすい方法です。
生成AIを安全に使い続けるために必要なのは、技術の細部をすべて押さえることではありません。何を決めておくか・誰が確認するかを先に決めて、運用しながら整えていくことです。
完璧な規程を最初から作る必要はありません。まずは「外部のAIに渡してはいけない情報」と「公開前に誰が確認するか」の2つから始めてみてください。
中小企業の生成AI活用と社内ルールづくりを相談したい方へ
株式会社ポケットは、神戸を拠点にホームページ制作・Webマーケティング支援を行っている会社です。自社でも生成AIを業務に組み込みながら、自分たちに最適化した運用ルールを更新し続けてきました。その経験をもとに、さまざまな形でAI導入支援も行っています。
「生成AIを使い始めたが、何から決めればよいか分からない」「現場の判断がばらつくので、最低限のルールを整えたい」という方はお問い合わせからお気軽にご相談ください。
参考資料
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日公表)
- 文化庁「AIと著作権について」(「AIと著作権に関する考え方について」「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」を含む公式ページ)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日公表)
- やじうまPC Watch「Samsung、ChatGPTの社内利用で3件の機密漏洩」(2023年4月4日公開)